生きているだけで十分仕合わせだ

今まででハッとしたこと。驚いたこと。生きていくうえで確かなこと。私の息子(昭和60年生まれ)に是非伝えたいことを書いていきます.猫に小判か、みずみずしい類体験か。どうぞ後者でありますように。

ビフォーアフターに登場する吹き抜けのあるリフォームに物申す(デザイン論)

吹き抜けのあるリフォーム

今は不定期になりましたが、テレビ番組で登場する家のリフォームに大改造劇的ビフォーアフターがあります。依頼者はリフォームされた我が家に足を踏み入れて、感激します。全く一新された我が家に目を疑うばかりです。これからの生活に夢が広がるのでしょう。リフォームを担当した設計者に何度も何度も感謝の言葉を発します。

リフォームされた家は面積が狭いのが多い。間口は狭く奥行が長い。そこでは家族の暮らしは押し合いへし合いです。

そこで多く登場するのが、吹き抜けのあるリフォームです。リビングやダイニングに、1階の天井がなく2階部分と上下に空間がつながって、1階から2階には階段で昇る。吹き抜けは何といっても空間が広がり開放感があります。現代的でおしゃれな雰囲気が出ます。1階と2階でコミュニケーションがとりやすい。高い場所に窓を設置できれば、日の光が階下に届き、日中の明るさが確保されます。下の階の窓から入った空気が、上の階の窓に抜けてゆきます。

しかし、ちょっと待てよ。この家は冬は寒くないのかい。空間がとにかく広い。暖かい空気は上の方に流れてゆく。暖房費がメチャクチャ高くつくのではあるまいか。新築と違って、外壁等に断熱対策は施せないぞ。床暖房をしても機能を十分に果せるのかな。夏は夏で熱気はすべて2階部分に上がってゆき、2階は暑くならないのか。空間も広い。冷房費だって高くつくのではあるまいか。

リフォームで吹き抜けのある家になって、依頼者が大変喜んでいるのを見ると、私はいつも心配になってきます。実際に暮らしていくと吹き抜けは、冷暖房費、とくに暖房費がかかることが一番問題になるとおもいます。そのほかにも掃除が大変だったり、照明の交換が手間だったり、臭いや上下階の音が気になったりしないだろうか。耐震強度は大丈夫だろうか。

 

先輩の家は広い広いリビング

話しは違いますが、私がサラリーマンの頃、会社の先輩のお宅にお邪魔したときに経験したことがあります。先輩は以前は2階建ての家に住まわれていましたが、平屋建ての家に引っ越されていました。この家のリビングは大層広いものだったのです。その広いリビングの中にコタツが一つポツンと置かれていました。広い広いリビングの中に、コタツが1つ置かれているに過ぎないので、いかにも不釣り合いです。落ち着きません。寒々しくさえ感じます。その家には大型の室外ボイラーがありましたので、どうしてそれを使わないのか質ねましたところ、暖房費が高くてとても使えたものではないということでした。広々としたリビングは開放感があり気持ちよいものですが、実際に住んでみるととんでもない、大変居心地がわるいものであったのです。

ここまで書いていくと、私の高校時代からの友人で設計事務所を開いているT君の話しを想い出します。

丹下健三黒川紀章の建物のデザインは本物ではない。なるほど、外観は人を魅了するものがあるが、彼等の建物は実際に使ってみると不具合が多く出てくる。本物のデザインというのは、実際の使い勝手がよいものを目指すものでなければならないはずだ。

それまで、建築設計に無関心であった私には、友人の話しは新鮮であり興味をひくものでありました。

 

丹下健三の代表作 国立代々木競技場第一体育館

丹下健三の代表作である国立代々木競技場第一体育館は、今では、冬季はアイススケート、春季秋季はプール部の上に木のパネルを貼って体育館として利用されています。夏季のプールは当初は利用されていましたが、1998年3月をもって利用されなくなっています。

吊り屋根構造の代々木競技場は、建築物のダイナミズム、美しさで群を抜き、代々木の歴史ある風致地区に溶け込んでいます。選手と観客を一体にするように包み込む無柱空間をつくっています。世界の賞賛を浴びていることは誰しもが知るところです。この点は素晴らしいデザインといってよいでしょう。

しかし、こと使い勝手となると問題が多かったようです。当初つくられたプールは、寒くて寒くて競泳には使えなかったと聞いています。1968年から数年おきに大屋根の部分的な塗装の塗り替えを行ってきましたが、ついには全面塗り替えが実施され、その際、大屋根の鉄板に雨漏りの原因となる穴や亀裂が2,590ヶ所も見つかったとされています。丹下健三の設計ではほかに都庁舎が有名ですが、雨漏りが多く、独特のデザインのため修繕費が膨大になるといわれています。

 

吹き抜けのあるリビングや広いリビングとデザイン論

私は外観の美しさを否定するものではありません。それによって人々は大きく感動したり、或は癒されたりだってします。しかし、私は、実際の使い心地がもっと大切なのではないか、という考え方に魅かれます。

友人の話を聞くまでは丹下健三といえば、それだけですごいというぐらいにしか考えていませんでしたが、友人から新しい見方をもらいました。デザインの本来求めるものはどこにあるかということです。

吹き抜けや広いリビングの開放感もよいのですが、私達にとっては、実際の生活が大切であり、住み心地がよいということが一番です。これを主眼において吹き抜けや広いリビングを採り入れることを検討することが大事になってくるとおもいます。

さて、ここまできて、建物を設計する人は、生活実感をどれだけ大切にしているのであろうか、と考えます。生活実感を大切にしている人はいても、さらに一歩踏み込んで、生活実感を検証し、それを積み上げている人は、殆んどいないのではないか、もしそのような人がいれば、その人こそ本物のデザイナーではないか、とおもうのですが。